30minute

で書く適当

幸福と不幸 その二

宝石の絵を描くのが好きだとか。

ただでさえ赤黒い肌は酔いの回った今、切り出した岩石そのままである。
そして両頬に伝う星飛雄馬ばりのず太い涙は岩石から染み出る天然の清水か。


「俺たちが学生だというのは、実は嘘だったんだ」


もはや学生だろうがどこかの路地に寝転ぶ身元不明の人間だろうが関係なかったが、
嘘だというのであれば「エッ」っとばかり驚いて見せるのも礼儀ってもんだろう。


なのでそのように、聞き返すそぶりで驚いて見せた。
すると汲んでも尽きぬ泉のように溢れ出る涙をぬぐいながら彼は、


「実は俺たち、観光客を騙して偽のダイヤモンドを売りつける仕事をしているんだ」


とのたまった。どっちでもいい話ではあったけれど、僕は更に驚くフリをして彼とその仲間と乾杯を重ねた。


ここんところで今も後悔しているのが「じゃ、何故僕等を騙さなかったのか」と問い返さなかったことだ。
が、尋ねなくて正解だったのかもしれない。そして次の日も彼等と同じ公園で会う約束をした。
友人は彼なりのタイ滞在中の予定があるらしかったので、その約束は僕と彼等の間でだけ成立した。


カオサン通りの窓のない、監獄のような3畳ばかりの部屋に戻った僕は、
こんな訳の分からない旅のスタートを祝い、泥のように眠った。


腐った暑苦しい喜びにひたるのは、彼等から騙され、
ダイヤモンドを購入した人達の喜びと同等なのかもしれない。