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で書く適当

幸福と不幸 その三

あの映画。ちなみに画像はサントラ。

次の日から彼等と遊ぶ日々が始まった。


彼等はルンピニー公園の周囲に2つのポイントを設け、観光客を勧誘して回っていた。
2箇所あるのは彼等の中の派閥が2つあるからだ。
仕事の方法はいたって簡単。


基本的に外国人であればどこの国の人間だろうと「客」と見なしており、
見た目がタイ人でなければ片っ端から声をかけていた。
そして話に乗った客を店(兼アジト)に連れて行こうと話がまとまると、
タイミングよく「偶然にも空車の」トゥクトゥクが登場する。


お察しのようにトゥクトゥクも彼等とグルである。
乗り込んでからは「タイの宝石は世界的に有名。信用度も抜群の店」と洗脳めいた、
滑らか過ぎるセールストークを一通り聞かされてから店に着き、彼等の仕事はそこでちょん。
以降客は一人になり、心細くなったところで彼または彼女は再度店のねえちゃんのセールストークを聞かされるハメになる。
ここまでくれば半分方話は済んだも同然だ。


ガラスケースの向こう側でオリエンタルな微笑みを浮かべる彼女たちは、全員モデル並みの美人。
商品を売りつけるためには軽い色仕掛けもお手の物。海外で開放的になっているおっさんならイチコロだろう。


色々な国の人間が連れてこられるが(アジトは店の隣部屋にあり、マジックミラーで店内が見渡せた)、
彼等の一番のお得意さんはパックツアーでやってきた「日本人女性」なのだという。
現に僕の目にした客の大半は数人で連れ立ったおばさんや、
ブランドで着飾ったおしゃれに余念のない(バックパッカー風ではない)日本人女性だった。


客の理想像は大体飲み込めたけれど、あまりにうそ臭い光景が繰り返されるので僕はあえて尋ねてみた。


「なぜ日本人女性が多いのかな?」


彼等はこういった。


「プライドが高く、タイ人を見下している彼女たちはまさか騙されるとは思っていない。
元々、騙されるという経験がない人たちだからね。
俺たちのセールストークとこの店を見たら(大通りに面し、ちょっとした規模の店だった)信用してしまうんだよ。簡単なもんだ。
さっきも言ったけど、彼女たちは明らかに俺たちを見下げている。それが信用を生むんだ。
だけど差別されてようが、どう思われようと俺たちは構わない。
だって彼女たちがそう思ってくれるおかげで食っていけるんだから」


僕はその話を聞いて、笑いながらも情けなかった。


ハイリスクハイリターンの仕事だからだろう。
「客を引き、送る」だけのシンプルな仕事は昼過ぎに始まり、
早ければ4時頃には公園の中央に車座になって酒盛りが開始される。
終わらない金曜日とはこの事をいうのだろうか。


タイスキを食べに行き、連中の仲間が演奏しているというパブに行き、
何もない日はアジトで飯を食べ、酒を飲んで過ごした。


1週間ほど経つと、友人は一足先にインドへ旅立っていった。
帰国後に会ったとき、


「もの凄いヘンな感覚だったな。でも絶対感動を含んだ種類ではなかったけど、
あえて言うならあの映画を見終わった時に感じた雰囲気に似てるな」


と、友人は語った。