「きちがい」と前面に大きく書かれたTシャツを着た男が地下鉄のホームにいた。
年の頃は分からないが、大まかに言えば若者といえるえだろう。
僕は彼に言った。
「キミはきちがいなの?」
彼は言った。
「何言ってるんですか!!」
だったらキミはきちがいじゃない。
怒る必要はないはずで、その約束は周囲の人間に見えるように宣言されているからだ。
「きちがい」というTシャツを着て。
僕はそのまま自然に彼に問い掛けた以外の何者でもない。
「だってキミ、シャツにきちがいとかいてあるじゃない。だから聞いたんだけど」
「あなたとは話にならない」
見ず知らずの他人から、もしあなたが聞かれたらどう思うだろう。
仮に僕だったらどう言うのだろう。
そこで交わされたのは少なくとも相手を否定する種類の言葉ではないはずで、
ディープに傷つけるはずのものでもない。
「ええ、どうやら僕自身の中では僕はきちがいなのですが、
いまひとつ確認できないのでこうやって自分の感じるままに理解されようとしてあがいているのです。
ついてはちょっとそこらへんのマクドナルドで相談があるんですけどいいですか。
奢りませんけどいいですか。聞いた振りして聞きませんけど」
とでも言って貰えれば暇に任せて彼とどこまでも、地の果てまでもオアシスが見つかろうとも。
くらいには思うはずだろうけれど、不幸にして僕自身は「きちがい」の兆候が現れたら、
「自然に任せて過ごしたほうがいいんじゃない」
としか言えない。
病院、精神科、心療内科、ホスピス、じゃなけりゃダルク、神経症専門医院。
他人に他人の作った薬を処方され、それをなんの疑問も持たずに生きていく。
ホントのきちがいは自分の子孫を残すことに必死だ。
夕闇迫る山間の奥地にひっそりと、止まり木に腰を収める旅半ばの頭ボサボサイエロージャップ。
もちろん僕もだ。吉野家イズジャパニーズNo.1連発。